こんにちは、会計士パパです。
米国株のやさしい紹介シリーズ、第17弾は「Mastercard(マスターカード)」です。財布の中を見ると、Visaのカードとマスターカードのカード、両方持っているという方も多いのではないでしょうか。前回紹介したVisaとの関係を軸に、3つの観点で見ていきます。
観点1:Visaとほぼ同じ「道路会社」、でも中身は少し違う
結論から言うと、Mastercardのビジネスモデルは、前回紹介したVisaとほぼ双子と言っていいくらいそっくりです。Mastercard自身も10-Kの中で「当社はカードを発行せず、信用を供与せず、利用者に課される金利や手数料から収益を得ることもない」とはっきり説明しています。つまり、Mastercardもお金を貸す銀行ではなく、決済の"道路"を提供して通行料を受け取る会社です。
では、何が違うのか。近年のMastercardは「付加価値サービス・ソリューション」と呼ばれる周辺事業に、Visa以上に力を入れています。具体的には、サイバーセキュリティ企業(RiskRecon、Ekata)の買収による不正検知サービス、購買データを使ったマーケティング支援(Dynamic Yield)、リアルタイム送金インフラ(Vocalink)などです。2025年通期では、この付加価値サービス・ソリューション事業の売上が前年比23%増と、決済ネットワーク本体(12%増)を上回るペースで成長しています。
「同じ土俵で同じ商売をしている2社」なのに、なぜ両方とも生き残れるのか。それは、Visaとマスターカードが、実は同じ取引を奪い合っているわけではないからです。あるクレジットカードが「Visa」か「Mastercard」かは、そのカードを発行した銀行が決めることで、消費者がレジで選ぶものではありません。両社は、銀行という"取引先"を奪い合う競争はしていますが、日々のお会計の場面で正面から価格競争をしているわけではない、という独特な業界構造になっています。
観点2:グラフで見る5年間の実力
過去5年分(FY2021〜FY2025、12月期)の決算数字を、Visaのときと同じ形式のグラフでまとめてみました。
純収益・純利益・純利益率
純収益は5年間で約1.7倍に成長し、純利益もほぼ一貫して右肩上がりです。特筆すべきは、点線で示した純利益率の安定感で、5年間ずっと44〜46%というごく狭いレンジに収まっています。事業が拡大する過程で効率が落ちることも、逆に急激に改善することもなく、常に「収益の半分近くが利益として残る」という高収益体質を保ち続けている、非常に安定したビジネスだと言えます。
総資産・自己資本(資産は流動・固定に分解)
Visaと同じように、資産を流動資産・固定資産に、負債・純資産の構造を並べて表示しています。ここで一番目を引くのが、負債が総資産の8割以上を占めている点です。FY2025で見ると、総資産542億ドルのうち純資産(自己資本)はわずか77億ドルほどで、割合にして1割台前半しかありません。Visa以上に「身軽な」財務構造で、稼いだ利益のほとんどを自社株買いや配当に回してきた結果、自己資本がほとんど積み上がらない状態が続いています。
観点3:徹底した株主還元と、規制・競争というリスク
3つ目の観点は、株主還元への姿勢と、意識しておきたいリスクについてです。
Mastercardは長年、稼いだ利益を配当と自社株買いにほぼ全額還元する方針を貫いてきました。観点2で見た自己資本の薄さは、まさにこの還元姿勢の裏返しです。稼ぐ力に強い自信があるからこそ、あえて手元に利益を残さない選択をしている、というのがVisaとも共通する読み方です。
一方でリスクとして意識しておきたいのは、Visaと同様、加盟店手数料をめぐる規制・訴訟リスクです。ヨーロッパや米国では、クレジットカードの手数料水準について当局や加盟店団体からの監視の目が続いています。また、各国政府が主導する「即時決済網」の普及や、ステーブルコインを使った新しい決済手段の台頭も、長期的にはカードネットワークを介さない決済の選択肢を増やす要因になり得ます。Mastercard自身も、こうした新しい決済インフラに自ら投資することで対応を進めていますが、業界構造そのものが変化する可能性は、Visaと合わせて頭に入れておきたいポイントです。
子ども関連ネタ:子ども向けデビットカードは、実はマスターカード陣営が多数派
最後に、子育て世代らしい話題を一つ。前回、JPモルガンの「Chase First Banking」がVisaのネットワークを使っているという話をしましたが、実は子ども向けデビットカードの世界的な大手、「GoHenry(現Acorns Early)」と「Greenlight」は、いずれもMastercard発行のカードを採用しています。
GoHenryは2007年創業のイギリス発のサービスで、6〜18歳の子どもがお小遣い管理やお手伝い報酬を通じてお金の使い方を学べるアプリとデビットカードを提供しています。カードにはMastercardのゼロ・ライアビリティ(不正利用時の補償)が適用され、世界210カ国以上のMastercard加盟店で使えるのも特徴です。前回はVisa、今回はMastercardと、子ども向け金融教育サービスの裏側は、この2社でちょうど分かれている形になっています。
まとめ
3つの観点を並べてみると、「Visaとほぼ同じ土俵にいながら付加価値サービスで差別化を図るビジネスモデル」と「5年間安定して44〜46%を保つ驚異的な純利益率」は非常に魅力的に見える一方、「自己資本の薄さ」と「手数料規制・新しい決済インフラの台頭」については、Visaと合わせて注目していきたいポイントだと感じます。
「双子のようなライバル」を2週続けて見てきましたが、細部を比べてみると、それぞれの個性がしっかり見えてくるのが面白いところでした。次回もまた別の米国株を、同じように3つの観点でやさしく紹介していきます。
それでは、また次回。
※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定銘柄への投資を推奨・勧誘するものではありません。投資に関する最終的な判断はご自身の責任において行ってください。





